2008年度の七夕とある笹薮の中を行く一同。ゲンキやチョコモン達は上機嫌に『七夕の歌』を口ずさみながら歩いていた。 「あぁ……。そういや、今日って七夕だっけ?」 その歌に、グレイが気付いた様に呟いた。 「そう! だからさ、今日はこの辺で野宿して、どっかの笹に短冊とか飾ろうぜ?」 グレイの言葉に、ゲンキは楽しそうに答えた。 ゲンキの答えに、チョコモン達も「賛成~~!!」と言ってはしゃぎ回った。 「そうね……。もう日も暮れかけてきたし、今日はこの辺で野宿にしましょう。」 ホリィが言うと、ゲンキとチョコモン達は「やった~!」と飛び上がって喜んだ。 「サンダー、折り紙出せるか?」 「もちろん。短冊も紐も、ちゃんとストックあるよ♪」 グレイの問いに、サンダーはそう答えると、何処からか七夕セットと折り紙を取り出した。 その七夕セットをゲンキが開けると、皆短冊とペンを持ってあちこちに散って行った。 そんな一同を微笑ましく思いながら、グレイは折り紙を持って適当な所に腰掛けた。 「グレイ~! おれココで短冊書いて良い?」 サンダーは短冊とペンを咥えてグレイの傍に駆け寄ると、そう問いかけた。 「おう、良いけど気ぃ付けろよ? オレこれからはさみも使うんだから。」 「うんっ!」 グレイの言葉に、サンダーは元気に頷いてその場に伏せて短冊を書き始めた。 その様子を確認すると、グレイは何処からかはさみを取り出し、七夕飾りを作り始めた。 グレイが黙々と作業を続けていると、ギンギライガーが短冊を咥えてやって来た。 「グレイ? 何をしているんだ?」 「ぁ、七夕の飾りを作っているんです。」 ギンギライガーの言葉に、グレイは笑顔で答え、ちょうど出来たらしい飾りをギンギライガーに見せた。 「七夕って、短冊に願いを書いて笹に吊るすだけじゃないのか?」 「えっと……。元々七夕って、織姫と彦星って人のお祭りだから、基本どっちでも良いんだけどね。」 「オレ、こういうの作るの好きなんです。」 ギンギライガーの問いにサンダーが少し考えながら答えると、 グレイはまた新しく他の飾りを作りながら、照れくさそうに答えた。 「それにね、グレイおりがみ上手いんだよ!」 「そうか。」 自慢気にいうサンダーの言葉に、ギンギライガーは微笑んだ。 「サンダー、ギンギライガー、グレイ。短冊書けたのか?」 黙々と飾りを作り続けるグレイを、ギンギライガーが微笑ましく見ていると、 ライガーがそう言いながらこちらへ歩いてきた。 「兄さん。」 「書けたなら、もう飾るぞ。」 「ぅあ、ちょっと待って! 今書く!!」 ライガーの言葉に、サンダーは慌てて書きかけだった短冊を書き始めた。 「まだ書いてなかったのか……。ギンギライガーは、もう終わったのか?」 サンダーの答えに、ライガーは呆れた様に溜息を吐いた。 「ああ、俺は書き終わってからこっちに来たから。」 「そうか。で、グレイは何をしているんだ?」 「ん? 七夕飾り。」 「たなばたかざり? 何だそれは。」 「七夕の日に、短冊と一緒に笹に飾る飾りだよ。」 ライガーの問いに、グレイは手を止める事無く答えた。 「……七夕は短冊を飾るだけじゃないのか?」 「人間界じゃ、短冊以外にもちょっとした飾りを飾る風習もあるんだよ。」 言って、グレイは出来た飾りをライガーに見せた。 「………そうか。で、お前は短冊書き終えたのか?」 「いや、まだ。」 「飾りより先に短冊書いたらどうだ?」 「……オレ、ベツに今願い事とかねェし、それに飾り作んの趣味だし。」 ライガーの言葉に、グレイはまた新しい飾りを作りながら答えた。 「え~、グレイ願い事ないのー?」 「だってさ、今サンダーもオルトも、皆居てさ、すっげー楽しいし。これ以上願う事はねェよ。」 不満そうなサンダーの言葉に、グレイは心底幸せそうな笑顔で答えた。 「………防御力が上がりますように~とかは?」 「防御はお前の仕事だろ? サンダー居ればオレガードする必要ねェし。」 「じゃあせめて素早さ上げて避けてよ。グレイHP低いんだからさ。」 「…………それは何か? オレへの文句か?」 「文句じゃなくて要望だよ。」 言って、サンダーは一つ溜息を吐いた。 「お前さー、オレが今凶器持ってんの忘れてねェか?」 グレイは、はさみを握り締めると、笑顔で言った。 「え、何お前。ここではさみ振り回すつもり?」 「ベツに振り回さなくても攻撃できるし?」 「投げんのも無しだよ? 大体、ライガーにいちゃんとギンギにいちゃんに当たったらどうすんのさ!」 笑顔で言ってのけるグレイに、サンダーは耳をペタンと後ろに倒して言った。 「大丈夫大丈夫、絶対当てないから。」 「んな自信どっから来るんだよ!? グレイ命中率もひっくいじゃん!!!」 「大丈夫。お前がそっから動かなきゃ投げる必要もないし、他の人に当たる事も無いだろ?」 「グレイ、サンダー! いい加減にしろ!!!」 突然怒鳴ったライガーの声に、サンダーとグレイはビクリと体を強張らせてライガーの方を向いた。 「遊んでないでさっさと短冊書け!」 鬼の形相で睨んで言うライガーに、サンダーとグレイは声を揃えて「ハイ……。」と呟く様に答えた。 「で、何書こうか。」 「何でも良いじゃん。」 「サンダー何書くんだよ?」 「そりゃ勿論、“ライガーにいちゃんとギンギにいちゃんとずっと一緒に居られますように”だよ?」 グレイの問いに、サンダーは笑顔で答えた。 「オレは? なァそれオレは? オレはずっと一緒じゃなくて良いのかよ!?」 「ライガーにいちゃん! おれ書けたぁ~!」 焦った様に聞いてくるグレイを無視して、 サンダーは少し離れた場所でギンギライガーと話していたライガーを呼んだ。 「ちょっと待て! 無視すんなよ、答えろよ! オレは? なぁオレは!?」 「……お前ら、またケンカしてるのか。」 「それ、兄さんも言えた事じゃないけどね?」 食い下がるように声を張り上げるグレイに、ライガーが溜息を吐いて呟くと、 その後ろでギンギライガーが限りなく小さな声で呟いた。 「ケンカじゃないよ~、グレイが勝手に怒鳴ってるだけだもん。」 サンダーは困った様に答え、ライガーに短冊を渡した。 「お、良く書けてるじゃないか。」 「うん! がんばった!!」 ギンギライガーがその短冊を覗き込んで言うと、サンダーは嬉しそうに答えた。 「“兄弟仲良く、ず~っと一緒にいられますように”か、良い願いじゃないか。」 「ぇ、ちょっとライガーにいちゃん! 音読しないでよ!!」 いきなりサンダーの短冊を読み上げたライガーに、サンダーは頬を赤く染めて困った様に叫んだ。 その言葉に、グレイはキョトンと目を丸くした。 「おまっ……。それさっき言ったのと違ェじゃんかよ!」 「願い事とか、普通声に出して言わないじゃん!!」 「嘘吐きは泥棒の始まりって言うだろ?!!」 「……おれ、盗賊の弟だけど?」 サンダーがしれっと答えると、グレイは何も言い返せずに黙り込んだ。 「グレイ、お前は書けたのか?」 「っだからぁ、何を書けば良いんだよ!?」 ライガーの言葉に、グレイは困った様に尋ねた。 「何でも良いんだぞ? 黒マントを倒せるように、でも肉が食いたいでも、何でも。」 「うぅ………。」 「何か無いのか? 要求とか野望とか。」 「……サンダーがこれ以上無茶な戦い方しませんように、とか?」 「やめとけば? それ100%叶わないし。」 「サンダー!」 グレイが漸く上げた願いに冷たくツッコむサンダーにギンギライガーが注意すると、 サンダーはペタッと耳を後ろに倒して身を縮めた。 「……そういやァ、ライガーは何書いたんだよ?」 「っ俺は何でも良いだろ!!」 グレイの問いに、ライガーは顔を赤くして怒鳴った。 「ギンギにいちゃんは何て書いたの?」 「“皆とずっと一緒に笑っていられますように”。後、“グレイともっと仲良くなれますように”って。」 サンダーの問いに、ギンギライガーは優しく笑って答えた。 「わ~……。グレイ~、ギンギにいちゃんお前の敬語不服だって~。」 「え、いや別にそういうワケじゃ……;」 「……で、ライガーはどうなんだよ?」 「っ………。“弟達の笑顔をちゃんと護れますように”だ。」 赤くなりながらも、ライガーはそっぽを向いて答えた。 その望みに、ギンギライガーもサンダーもグレイも目を丸くした。 「兄さん……。」 「ぅわあ~、ライガーにいちゃんカッキィ~!! おれもそういうのにすりゃ良かったぁ~!」 「つかソレのドコに赤くなる要素が入ってんだよ?」 「ぅ、ウルサイ! いいからお前もとっとと書け!!」 感動したように呟くギンギライガーと、感想を述べるサンダーとグレイの姿に、 ライガーは更に顔を赤くして言った。 「分かってるよ! ……あ、こんなのどうだ?!」 言って、グレイは短冊にペンを走らせた。 「出来たっ!!」 数秒後、グレイは書き上げた短冊を掲げて言った。 そこには、“もっと強くなれますように”と書かれていた。 「シンプルな望みだな。」 「分かりやすくて良いじゃないか。」 「悩んだ意味無いじゃん。」 「いーんだよ!」 言うと、グレイは短冊を持って立ち上がった。 「じゃあ、いい加減飾りに行くか。」 「うんっ!」 その言葉に、グレイが辺りに散らばっていた七夕飾りの折り紙を拾い上げると、 ライガー達はゲンキ達が居る場所へと歩いて行った。 「うわぁ~~!」 「何ソレ! 全部グレイが作ったの!!?」 「すっげぇ~~!!」 グレイが持っている七夕飾りを見るなり、ゲンキとチョコモン達は グレイの周りに群がって、口々にそう言った。 「相変わらず、折り紙上手いな。」 「まァな、趣味だし。」 オルトの言葉に、グレイは笑顔で答え、既に短冊が飾られている笹に飾りを付けていった。 「今年はグレイもオルトも居るから、明日が楽で良いね。」 「……やっぱ燃やすの?」 「え~、七夕飾りこんなに綺麗なのにぃ~?」 「燃やすよ? 決まってんじゃん。それが七夕の儀式の一つでもあるんだし。」 「けど、勿体無いよな……。」 サンダーの言葉に、ゲンキはグレイの折った星を拾い上げて呟いた。 「良いじゃん? 花は枯れるからこそ美しい。」 「あ~、盛者必衰の理ってヤツ?」 「そうそう。ま、オレの場合は燃え行く様を眺めんのが好きってのもあるけどな。」 グレイはそう言うとクスクスと笑った。 その様子を見て、ゲンキ達はちょっとひいた。 「………燃えフェチ?」 「どんなフェチだよ;」 楽しそうに呟いて首を傾げるサンダーに、オルトはそうツッコミを入れた。 「あ~、明日が楽しみだなァ~♪」 「雨降んないと良いね。」 無邪気に笑う双子を、一同は少し困り気味に見つめた。 7月7日 今宵は七夕。 今年も皆の願いが叶いますよう……。 |